Are you understand ? 


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− Are you understand ? − CIVIC

 マンホールを踏んだ。下からの突き上げるようなショックがひどい。舌を噛みそうになる。
 本屋に入ろうと段差にのる。相棒が顎を擦るんじゃないかと気が気じゃない。もちろん、輪止めが怖くて駐車はバックが基本。
 田舎道を走る。硬い脚が凹凸を拾ってぴょこんと跳ねた。田んぼの蛙も真っ青だ。

 まったく、乗り心地は最悪だわ、乗りやすさは最悪だわ、手がかかるったらない。我が相棒ながら、他人が似た苦労をしていると、よくやるもんだと感心する。
 乱暴に走る気がなくても、暴れ馬はいつだって暴れながら走るのだ。宥めるのは容易じゃない。

 ただ、山で森で、サーキットで、手綱を引くことを止めてみると、こいつは恐ろしいほどの名馬になる。暴れ馬に暴れることを良しとした瞬間から、世界の方がこいつに染まる。
 走りたがるなら走らせればいい。それだけのことなんだ。
 方向の指示だしと、相棒を煽ることが俺の仕事。あとは振り落とされないようにしがみつくだけでいい。
 こいつの走る才能が、燃え上がり火花を散らす。後ろを振り返る暇なんかない。ただ前を行く獲物を見据え叫ぶ。
 奴の前に、奴の上に、俺達は駆け上がり登りつめる。俺達以外の誰かが先に着くことを、決して許しはしない。

 正直こいつは化け物だ。それに綱をかけて町で飼おうものなら、ただの乗りにくい暴れ馬にしかならない。
 しかし、世界を変える馬を、手ばかりがかかる相棒を、手放す気は少しも起きない。
 なんて不思議な魅力を備えているんだろうか。この熱にうなされながら、俺のように囚われた奴が何人いるだろう?
 蹴られても噛まれても、大枚を叩いても後ろ指差されても、愛することを止められない。命をも捧げるような馬鹿になっていく。

 ……アクセルを踏みすぎた。赤い針が跳ね上がり、不自然にエンジンが吹き上がる。高々と吠える相棒はやたらと人目を集めた。
 坂道で止まって、そして、クラッチを繋ぎ損ねた。信号が青いのに、前に進めない。溜め息を吐いてエンジンを再始動。

「俺といるのにぼさっとしてんじゃねぇ、分かってんのか!」
 そんな文句が聞こえるほど、お前の気持ちは分かるようになった。やんちゃっ子の扱い方だって上手くなったろう?
 後でまた綺麗に洗ってやるからさ、機嫌直して、エンストだけは勘弁してくれないか。

−終−


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